臓器移植

2002(平成14)年4月

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河野洋平(父)・河野太郎(長男)親子の生体肝移植

私が初めての衆議院選挙に挑戦したとき、どこの馬の骨か分からぬ私に温かく手を差し伸べていただいたのが河野洋平先生でした。長男の河野太郎さんも同時に衆院選に出たということもあり、その後家族ぐるみのお付き合いをさせていただいています。

その洋平先生が顔色もすぐれず、倦怠感を隠せぬばかりか声まで出にくくなってきていました。外相等の激務のせいかなと思っていたのですが、昨年暮れあたりからさらに体調が崩れてきたのです。原因は肝臓でC型肝炎から肝硬変に進んだとのことでした。

治療の方法は生体肝臓移植が最も効果的とのことで、河野太郎さんは自分のメルマガにも書いているように、大変苦慮したすえ、ドナーとして父親に自分の肝臓の三分の一を提供する決断をしたのです。

そして2002年4月に生体肝移植術が信州大学付属病院で実施されました。長時間にわたる手術だったそうですが、無事に終了し、その結果は大成功でした。5月連休明けに退院された太郎先生はすでに総務省政務官として活躍中。一方洋平先生は6月いっぱいで退院される様子です。

先日直接河野洋平先生から電話がありました。以前の声とは全く違う元気な張りのある声で「君が中山太郎先生と苦労して創った臓器移植法の理解を深め、臓器移植術をさらに普及させることは大切なことだ。経験者として病気で苦しむ人々のために退院後はこの問題にしっかり取り組みたい。最もこの問題に詳しい松本君には現状と問題点についてレポートをまとめ私に送るように」とのお話でした。

早速レポートをまとめました。以下の通りです。


生体部分肝移植について

C型肝炎から進展する肝機能低下、肝硬変、肝がん対策として臓器移植を普及させる必要性を感ずる。

問題点と対応方法は以下の通り

1.ドナー不足について

(1) 臓器医療ネットワークなど情報収集および提供システムの進展
  ドナーカードの普及
   (国ばかりでなく地方自治体のドナーカード普及をさらに推進する必要)
  一般国民への普及啓発
   (移植医療に関する情報提供を増やす)

(2) 脳死移植法の見直し
  ⇒臓器移植に関する法律の要点(別添資料1)
  子供の脳死の問題が大きい!!
  施行後3年での見直し(平成12年度)では子供に対する対象者拡大はなされなかった。
  脳死状態でも2年も心臓が動いていた例などがあり、子供の脳死を安易に決定できないとのこと。
   (医学上の問題と家族の感情の問題)

(3) その他
  
未開発の研究(例、再生医療)を応援する。

2.経済的支援について

(1) 医療保険の適用
  ⇒生体部分肝移植の保険上の取り扱いについて(別添資料2)
  
⇒高度先進医療(別添資料3)
  臓器移植術に関する保険適用についての現状
  保険適用とされている臓器
   ・腎臓 ・肝臓(生体) ・角膜 ・強膜 ・骨髄 ・臍帯血 ・骨 ・皮膚
   ※肝臓(脳死)、心臓については高度先進医療として承認
  保険適用とされていない臓器
   
肺 ・すい臓 ・小腸

(2) 保険以外の支援方法
 議員連盟を設立し、現行制度の中での議論のみならず、新たな支援策(法改正、新たな補助金、新たな研究の推進等)の可能性を模索していく。

(参考:生体肝移植に関する経緯)

@経緯
  平成4年8月より高度先進医療(※)の適用
  平成10年4月より15歳以下の患者について保険適用
 高度先進医療は、特別な医療機関で行われた高度先進医療について、基礎的な診療部分について保険給付の対象とするもの。

A高度先進医療から一般的な保険適用となるポイント
   有効性・安全性の確立、普及性・費用対効果です。野暮な例ですが、ガンに効果があると少数が主張するキノコを、直ちに保険適用できない訳です(有効性)。また、危ないレベルの医療を保険で見るわけにもいきません(安全性)。

B生体肝臓移植についての現状
・大人についての状況
そもそも生体肝臓移植は、今まで子供を対象に研究が進められていましたが、ようやく現在は大人にも拡大してデータ、エビデンス収集をしているところだそうです。
・費用
ちなみに日本での生体肝移植の医療費は800万円(全額自費とした場合)、米国では入れ替え(脳死肝移植2度の手術分の担保)を含め6,000万円にもなるそうです。負担軽減に向けては、学会意見(一般化の必要性)に取り組むことが必要。
・実施状況、生存率
我が国においては千例を超えて施行されている。
5年生存率は70%程度


臓器の移植に関する法律の要点(別添資料1)

《経過》

平成9年6月17日 臓器の移植に関する法律が成立
平成9年10月16日 臓器の移植に関する法律が施行

《臓器移植法の要点》

1.臓器の範囲
「臓器」とは、人の心臓、肺、肝臓、腎臓その他厚生労働省令で定める内臓(膵臓及び小腸を規定)及び眼球をいうこと。

2.臓器の摘出に関する事項
 @医師は、本人が臓器提供の意思を書面により表示しており、かつ、遺族が拒まないときには、移植術に使用するため死体(脳死した者の身体を含む)から臓器を摘出することができるものとすること。
 A@の「脳死した者の身体」とは、臓器が摘出されることとなる者であって脳死と判定された者の身体をいうこと。
 B臓器の摘出に係る脳死の判定は、本人が脳死判定に従う意思の表示があり、かつ、家族が脳死判定を拒まない場合に限定すること。
 C当分の間の経過措置として、眼球又は腎臓の摘出については、これまでどおり、遺族の同意により、心停止後の死体から摘出を認めること。

3.その他の主な事項
 @区に及び地方公共団体は、移植医療についての国民の理解を深めるために必要な措置を講ずるよう努めなければならないこと。
 A臓器の摘出に係る脳死の判定、臓器の摘出又は移植術を行った医師は、それぞれ記録を作成しなければならないこととしたこと。
 B臓器の売買等を禁止したこと。
 C業として死体から摘出された臓器のあっせんをしようとする者は、臓器の別ごとに厚生労働大臣の許可を受けなければならないこと。
 D法施行後3年(平成12年10月)を目途に制度全般について検討を加え、必要な措置が講ぜられるべきものとしたこと。


生体部分肝移植の保険上の取り扱いについて(別添資料2)

○平成4年8月、高度先進医療として承認

・移植術自体に係る費用は自己負担、入院等に係る費用は保険給付の対象
・承認施設は順次増加、平成10年2月時点で14医療機関

○平成10年4月より、保険適用

・以下の要件を満たす医療機関に限り、所定点数をすることができる。
@肝切除術が年間20例以上であること、又は小児科及び小児外科の病床数が合わせて100床以上の保険医療機関については肝切除術及び先天性胆道閉鎖症手術が合わせて年間10例以上あること。
A当該手術を担当する診療科の常勤医師数が5名以上で、このうち少なくとも1名は臓器移植の経験を有すること。
・保険点数は63,700点

○対象疾患は、肝硬変、劇症肝炎、先天性胆道閉鎖症等である。ただし、肝硬変及び劇症肝炎については、15歳以下の患者に限られている。


高度先進医療(別添資料3)

○対象となる技術
有効性や安全性は確立されており、高度先進性は認められるものの、普及性や費用対効果の観点から、保険適用について更に検討が必要な技術

○対象となる医療機関(=特定承認保険医療機関)
大学病院等、高度先進医療を行う基盤が整備されている医療機関
⇒対象となる技術及び特定承認保険医療機関は、厚生労働大臣による個別承認を受けることが必要。
(平成13年7月1日現在の承認状況)107医療機関、73種類(268種類)
(総額:平成10年8月〜11年7月)約19億7千万円→(内訳)特定療養費総額:16億7千万円、患者自己負担額:約3億円

○高度先進医療については、診療報酬改定時に、普及性・費用対効果等を勘案し、保険適用の可否を決定している。
(高度先進医療から保険適用された技術:45種類)

※費用負担
□高度先進医療部分⇒患者負担(差額徴収)
□一般診療共通部分(診察、検査、入院料、投薬、注射等)⇒特定療養費として保険給付
□一部負担金相当部分⇒患者負担(法定の一部負担)

※高度先進医療の承認手続き
医療機関から申請→社会保険事務局(窓口)→厚生労働省→高度先進医療専門家会議で検討→中医協へ諮問・答申→厚生労働大臣が承認


2002/05/04
●河野太郎のメルマガ紹介

ごまめの歯ぎしり  メールマガジン版
河野太郎の政務官日記
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生体肝移植のドナーになりました。相手(レシピエント)は、親父でした。

おかげさまで、親父の経過は良好です。私も近いうちに、国会と総務省に復帰する予定です。 

川崎教授をはじめとする信州大学、順天堂大学の全ての関係者の皆様とお世話になった松本市の方々、そしてご心配と激励をいただいた全ての皆様に、心よりお礼申し上げたいと思います。

私の親父は、もうかなり長い間、C型肝炎を患い、肝硬変がずいぶんと進んでいました。今年の正月に体調を崩して入院した親父を、病院に見舞いに行くと、ベッドの上で、黒く、小さく、まるで干からびてしまっているようでした。このままだと、間違いなく死んでしまうだろう、という状況でした。

おふくろを七年前に亡くしたものですから、親父には、できることは何でもやって、少しでも長生きしてもらいたいというのが正直な気持ちでした。

どうやら親父の容態が、かなり悪く、最後の手段としての移植の条件に当てはまるのではないか、ということがわかってきた段階で、私自身はわりとあっさりと自分がドナーになって、生体肝移植をしようか、と思うようになりました。

肝移植については、私は前から知識を持っていました。初当選してすぐ、国会で、臓器移植法案の議論があり、厚生委員会で質問に立つために、島村君という友人と二人で移植の問題をずいぶんと勉強しました。 私には、今年の四月六日に結婚したばかりの弟と独身の妹がおります。しかし、長男としては、弟や妹にドナーになれというわけにはいきませんから、そこはたんたんと、自分がやろうと思いました。

少なくとも国内ではドナーが死亡した例はありませんし、肝臓は再生する臓器ですから、怖いことは無いと思いました。もちろん再生するからといって、一度肝臓を切った身体が、100%元に戻るのかと言われれば、そうならない可能性もあるのかもしれません。しかし、道を歩いていても運が悪ければ事故に会うわけだし、去年の年末にアフガニスタンに行ったときに地雷を踏んでしまったことだって起こりえたわけですから、人生何事もリスクはつきものです。ここで、思い切って移植をして、親父を長生きさせよう、後は余生を楽しんでもらいたいと思いました。 親父の命は延ばしたいとは思いましたが、はっきり言って、政治家河野洋平の政治生命の延命には興味ありません。もうそろそろ引き際でしょう。

これまでの日本の政治家の欠点のひとつは、きちんとした回顧録を残していない人が多いということです。河野洋平には、移植で延びた命を使って、これまで自分がやってきたことをしっかりと振り返った記録的な価値のある回顧録を書き上げてほしいと思っています。ヤングパワーといわれ、新自由クラブを創り、十年間自民党と戦い、復党して官房長官や、野党の総裁、副総理・外務大臣を歴任した政治活動をきちんと後世に自分の言葉で残すことは、政治家河野洋平の最後に残された大切な使命です。つまらん自民党内の抗争のために、自分の大切な肝臓を提供したつもりはありませんから、派閥次元の発言は差し控えてもらいたいと思います。

親父も感染したC型肝炎ウイルスは、日本では四十年ぐらい前から広がったといわれ、このウイルスに感染している日本人は、一説によると五十歳代以上で3−4%といわれています。インターフェロンのような新しい治療法ができてきましたが、C型肝炎に感染すると七割の人が慢性肝炎になり、およそ二十年で肝硬変、三十年で肝臓がんへ移行するとも言われています。日本では、1980年代以降肝臓がんが急激に増え、そのうちの九割がC型肝炎によるもののようです。今や、このC型肝炎ウイルスにどう対処していくかは政治問題でもあります。

肝移植によって、C型肝炎ウイルスが消えるわけではありません。しかし、肝硬変が進み、肝臓が機能しなくなった患者にとっては、移植はいわば生きながらえるための最後の手段です。一年以内に肝臓病またはその合併症で死亡することが予測され、他に有効な治療方法が無い場合には、移植は選択肢の一つでしょう。移植後に、新しい肝臓が再びC型肝炎ウイルスに感染する可能性が高いものの、病状の進行は比較的穏やかで、移植後五年の生存率は良好です。しかし、今の日本では、脳死移植の提供件数が少なく、生体肝移植が必要になってきます。

自分がドナーになってみて思うのは、生体肝移植についての正しい情報がきちんと発信されていることの大切さと生体肝移植を美談とすることの危険さです。

生体肝移植がどういうものであり、その可能性とリスクについて、正確に伝えていくことはとても大切なことです。

しかし、C型肝炎による肝硬変に対する生体肝移植が有効な治療法として確立され、その件数が増えれば増えるほど、患者のご家族のようなドナーの候補者に対しての社会的なプレッシャーが高まっていくことになりかねません。ドナーになるかどうか、つまり自分の身体にメスを入れ、健康な肝臓を切り取るかどうかは、大変大きな決断です。全てのドナーの候補者に対して、最新の正しい情報を入手できることと、誰からも圧力をかけられずに決断できることが保障されなければなりません。そして、肝臓を提供するかどうかは、ドナー候補者の個人的な決断であり、その決断ができる状況を確保しておかなければなりません。

生体肝移植を「美談」としてマスコミなどが取り上げることは、不必要な圧力を高めることにつながりかねず、絶対に避けるべきだと思います。 健康な肝臓を切るということが、身体にとって良いはずはありません。いつまでに、どこまで、回復するかには、個人差があります。家族や仕事の状況、人生のタイミングなどをじっくり考えて、やはり提供できないという決断も当然あると思います。切るのは怖いという方もいるでしょう。C型肝炎による肝硬変の治療としての肝臓移植には、今日現在、保険の適用もありません。高額な治療費が、すべて自費(レシピエントの負担)になります。

C型肝炎の患者のご家族に申し上げたいのは、ドナーになるかどうかの決断だけで、レシピエントへの愛の強さを量ることはできないのだということです。ドナーになる勇気と同じぐらい、自分の身体と家族を守っていく勇気も大切です。

私がドナーになることを決めたのとほぼ同じタイミングで、わが愛妻は結婚九年目にして初めて、つわりを経験していました。彼女は、私がドナーになることを非常に不安に思っていました。彼女は私よりも熱心に、移植に関する英語の文献まで取り寄せて読み、何度も何度も信州大学の先生方に移植した後のドナーの経過を質問し、最後は信州大学で移植手術を受けたドナーの方にも直接お目にかかって、話を伺いました。そして、最後は彼女なりに納得したのだと思います。私は、親に対する気持ちと生まれてくる子供への責任をはかりにかけ、移植技術をはじめとする医療体制を信じて、ドナーになりました。しかし、妊娠初期の不安定な時期に、妻に精神的、肉体的に大変な負担をかけてしまいました。おそらく義母も複雑な気持ちだったろうと思います。

手術後の痛みは、個人差が大きいといいますが、私の場合は予想以上でした。ICUでは、痛みと吐き気で二晩のたうち回りました。あまりの痛さに、神様、やっぱりやめます、目が覚めたらこれは無かったことにしてください、と頼んだほどでした。全知全能の神様は、この願いを聞き入れてくださいましたが、目が覚めるどころか、あまりの痛さに眠ることもできなかったため、取り消しはききませんでした。

さらに、私の肝機能も十分に回復し、そろそろ退院というときになって、突然に、食事ができなくなりました。肝臓を三分の一切ってしまったため、そこに大きな空間ができて、胃がその新しい空間にはまり込むような形でねじれてしまったのです。これはドナー独特の症状ですが、胃カメラを飲んで、このねじれを直すことができました。(信州大学では、十年間に実施した115件の生体肝移植のうち、13人のドナーにこの胃のねじれが発生したそうです。そして、そのうち12人が胃カメラを一度だけ飲むことで症状が治りました。)

親父が政治家だったために早死にしたおふくろは、天国で、親父が来るのを楽しみにずっと待っていたと思います。そのおふくろに、まだ、親父はそっちに当分行かないよ、と言わなければならないのが、ただ一つの心残りではあります。


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