松本純の意見1999

1999(平成11)年7月14日

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健康保険組合連合会神奈川連合会理事役員会 講演ポイント

医療制度抜本改革の論議経過と今後の行方

▼抜本改革の必要性について

右肩上がりでの経済成長が難しい中で、医療保険も厳しい財政状況になってきています。現在、保険料は経営者側と被保険者側とで負担していますが、給料が抑えられ、リストラが進む中で、今後保険料収入が膨らむとは考えられません。

少子高齢化はいうまでもなく進み、2007年をピークに全人口は減少していきますが、その中で高齢化は進む一方です。このままでは医療費そのものも、2000年には30兆円を超えて2010年には54兆円、2025年には104兆円という膨大な金額に達するということが試算されています。

もはや何もしないということはできませんし、目先の手直しではすまされない、医療保険制度の抜本改革が必要ということになり、平成12年4月の実施にむけて議論が進められています。国会議員はこれを共通の理解として持たなければならないのですが、そういう同僚議員はいまだ多いとはいえず、実はもっと本腰を入れてほしいというのが本音であり、私自身歯がゆい思いをしているところです。

先般の健保連のストライキ(老人保健拠出金の延納)についても、医療基本問題調査会の丹羽会長は激励という受け止め方をされておりましたが、一部ではルール違反ではないかとの議員もいます。私は健保連の皆さんの切々たる思いを受け止めて医療保険制度を抜本的に変えていくことが必要だと思いますが、議員の中には皆さんの厳しい状況を受け止めきれず、現状についての認識に甘さがあるといわれれば、そのとおりかもしれません。

▼なかなか定まらない改革の方向

現状の医療保険制度で改革が迫られているのは医療提供体制、薬価制度、診療報酬、そして高齢者医療制度の4本柱です。このうち、平成8年から9年にかけて、様々な議論がなされたのは薬、特に薬価差の問題でした。早く手を打たなければならないところから対応しようということで、薬剤の一部負担をお願いするとの議論が出たのです。これにより高薬価シフト、多剤投与をおさえることがねらいでした。医療抜本改革までのつなぎとして、保険財政を考え、無駄を排することはおおいに賛成という立場をとりました。その結果、ややこしい計算方式とはいえ、平成9年9月に健康保険法の一部改正がスタートしたのです。

その後、引き続き抜本改革についてさまざまな議論がなされましたが、そのなかで4本柱を同時に議論され、完成させないと、いろいろな不都合が生じるとの意見が出てきました。例えば、薬価差を無くすのは良いが、それでマイナスした分をどうするのだという意見が医療機関側にはありますので、片方だけ決めて、あとは知らないというのでは困る、そんな不信感のようなものが医療機関側にあるのも事実です。そこで4つのことを同時スタートさせるということで、自民党内部の医療基本問題調査会で議論されてきました。しかし、4つを平行に議論すること自体がなかなか困難です。例えば参照価格制度については、薬剤師会としては条件付き賛成という考えを当初示しましたが、医師会は真っ向から反対という意見でした。その後、薬価制度については、各関係団体から様々な提案がなされ、それぞれの意見が平行線をたどりました。その結果、医師会の案も厚生省が出した参照価格制も米国製薬メーカーが出した自由価格制についても全てをいったん白紙に戻して違う方法を考えようということになってしまいました。議論が始まると混沌につぐ混沌で、コメントを出すことも難しくなり、4本柱をひとつずつ進めながら4つを検討するということはできず、残念ながら、いまだに結論がでていないのが現状です。ですから公式文書というものは、このところずっと出されていません。

ただ、6月4日に自民党内部の医療基本問題調査会の席上で、丹羽会長が非公式ですが、メンバーにプリントを示されましたので、その内容について少しコメントを加えながら報告いたします。

▼医療提供体制の改革について

医療提供体制について改革を迫られているのは、入院施設の整備、病床の機能分化、医療における情報提供の推進、診療情報の開示、医療機関に関する情報の適切な提供のあり方、そして医療従事者の質の向上が上げられています。また、末期医療のあり方についても検討が迫られています。

薬価制度の改革について

1.薬価算定方式等の見直し

@ 薬価差の見直しと薬価改定の見直し

現行R幅方式を抜本的に見直して薬価差を無くすとともに、薬価改定の頻度についても見直すことがあげられ、これについては医師会も認めたところです。仕入価の調査については、その頻度を見直そうということですが、回数としては1年に1回見直しを行うということが認められています。

A 薬価算定方式について、以下の視点を踏まえて見直し

・画新的新薬に対してはこれまで画期的新薬に該当する新薬が1種類しか認められておらず、もう少し幅広く承認をしていってもいいのではないかとの考え方です。適正な評価をして、それについては別の加算を考え、メーカーがチャレンジしやすい状況を作るべきだとの意見があります。

・長期収戴品目については、後発品市場を育成し、安い薬が安心して使えるという環境を作り出していくことが求められており、さらに公正な競争ができるような環境を築いていくことが重要です。

・新規性に乏しいいわゆるゾロ新と呼ばれる新薬については、薬価算定方式を適正化することも必要であるとしています。

2.診療報酬での対応

医師会では薬価差をなくした分を技術料で評価をしないと、今までと同じ運営ができないと主張しています。平成8,9年あたりの薬価差はRを含んで1兆円を超える価格になります。医薬分業が進み、薬価差そのものは縮小してくる傾向にあり、厚生省によると平成11年度末の薬価差は4700億円程度としています。試算がおかしく、もっとあるはずだというのが医師会の意見で、この価格差をどうするのか、これがベースになるため議論が続いていくことになるでしょう。

3.製薬産業の研究開発力の強化

例えば、H2ブロッカーの開発によって、手術が少なくなったとの実例があります。良い薬ができると安い医療費で治療ができるということから、メーカーが開発に力をいれられる状況を作るということは国家的な戦略としても大切です。

4.薬剤に関する情報提供の推進

処方箋の中身を医師、患者さん、薬剤師と三者が見る。それだけでも重要な意義があります。医薬分業については患者さんにとって不便だ、病院のなかだけでもらえれば安いのに調剤薬局と両方の支払い分を足すと高くなってしまう。あるいは薬があると思って行った調剤薬局に薬がなかった。そういった批判が出ています。しかし、現実にはこの3年間の流れを見ると、処方箋は平成7〜9年では前年より3000万枚、4000万枚、5000万枚という勢いで増え、現在全体で4億枚といわれています。1年間で5000万枚増えるということは、技術を持った薬剤師が毎年新規に5000人必要ということです。つまり当分の間、薬剤師を教育補充していかなければならないという混乱期にあります。現実には慣れていないがために薬剤師のミスなども生じる可能性がありますが、厚生省からも支援してもらいながら、重要な役割を担えるよう、薬剤師会を中心に努力をしてもらわなければならないと思っております。

現在、4億枚の処方箋に対して約2%、800万枚の疑義照会があります。このうち400万件は事務的なものでもう半数は処方内容についてで、その件数は毎年のびているとのことです。疑義照会の内容で最近増えているのは、重複投与、年齢に不相応な薬剤が出ている、こんなことの確認が多くなっています。処方箋の確認により国民を薬害から守るという一定の役割を果たしているということを確信を持ってお伝えできると思います。

情報公開というものも将来的には電子機器などを取り入れてカード化することもすばらしいことですが、すぐに全てに対応することはできません。今あるものを使っていかに効率よく合理的にやれるか、そしてさらに複数の医療機関からでている処方箋をかかりつけの薬局で管理できるようになれば薬の重複使用なども防ぐことができ、無駄な医療費をおさえることにもなると確信しています。

薬剤の質や効果、副作用、分類、価格など、薬剤に関する情報を患者、医療機関等に提供する、特に品質評価マニュアル(オレンジブック)の発行については、現在第一段の内容が公表されたところです。

5.薬剤負担のあり方

別途徴収方式は二重負担ともいわれ、廃止して新たな方策について早急に検討すべきとされています。これについては平成12年度の抜本改革が完成するまで続けるというのが平成9年度までの基本的考え方でした。平成11年7月に高齢者の薬剤負担を取りやめており、一部乱れが生じてしまっていますが、この影響については、なかなか情報は得られません。ただ平成9年9月の改正では薬剤負担が生じたにもかかわらず、現実には高齢者の受診抑制は起きていない、つまり、受診機会を奪ってはいないこと、これは訴えていかなければならないことだと思います。その一方で薬剤の数が減ったという実績もあります。

6.薬価算定の透明性の向上

現状では、品質のよいものも悪いものも一定の値段の決め方をしているというふうにも聞いています。中医協の中に薬価算定に関する組織を設置することで、見えない決め方を透明にしていく、これには私も賛成です。

7.審査、承認の透明化、迅速化、安全性の確保

これらは世界的な趨勢に合わせるものであり、国際競争に勝つうえでも大切だと思います。

8.医薬品流通の近代化

仮納入、仮払い問題の是正、不適切な取り引きの改善なども必要です。

■診療報酬の改革について

診療報酬については「もの」より「技術」を重視する等の観点から現在の体系を見直し、医療機関の経営の安定化と効率化を図るという観点からしっかりした議論が必要だと思っております。

技術料の適正な評価を進めるとともに医療機関の機能分担と連携を促進し、病院と診療所、医療と介護、国公立病院と民間病院などの機能の分担を図ることとしています。また、高額医療機器等の適正配置や共同利用を進めること、医薬分業を適切に推進することも欠かせません。医薬分業では、かかりつけ薬局の育成、院内薬局のあり方等の観点から、現状の問題点の把握、検討を行うこととしています。

いわゆる入院患者の早期退院問題、付添い看護婦の実態の是正、疾患の特性に応じた投薬日数のありかたについても検討を行うこととしています。

こうした改革を進めるとともに、報酬については、出来高払いと包括払いの最善の組み合わせを検討すること、検査医療機器、医療材料の価格の適正化を進めること、歯科医療の評価をどうするかを検討することとしています。これらの問題については歯科医師会から不満の声があがっています。内科と歯科では薬の使う量が全然違い、歯科医は薬をそんなに使わない、となると薬価差はあまりない。歯科医は手厚くする必要はない、という単純な決め方では困るというのが歯科医師会の意見です。全体の基本料を含めてもう一度見直すべきとの要望が上がっています。

■高齢者医療制度改革について

寝たきり、あるいは医療にかかる人が少なくなれば、医療費が減るということで、健康管理、健康増進の推進があげられています。また、老人医療の効率化とともに高齢者の患者負担のあり方が重要です。この2つについては、問題が山積していますが、私個人の考えでは一定の負担をして頂くのが妥当であろうと考えております。老人医療を支えるしくみのあり方も重要な課題です。これについては現在2つの考え方が示されています。一つは国保と縁を切り突き抜けで行こうという健保連の考え方です。もう一つ、医師会が主張している考え方で75歳以上の老人の部分だけ別建ての保険を創設し、それについては保険料と自己負担を合わせて10%程度を被保険者が持ち、残りの費用は公費で面倒をみるというものです。いずれも一長一短があるように思われ、今後より深い議論をしていかなければならないと思います。

さて先行した参照価格制度の議論のたたき台は、平成8〜9年の自・社・さの与党協のまとめが基本になりました。それにのっとり、厚生省あるいは医療保険福祉審議会が議論をして出してきた答えがいわゆる日本型参照価格制度です。それに対して審議会が勝手に決めるのは何事ぞといった意見が議員のなかに起こり、改革をするのは政治側にあるのだということになり、原案は白紙になってしまいました。いったん役所に投げられたボールが政治に戻り、それを政治自らが白紙撤回にしてしまったのです。現状では議論は進んでおらず、大変残念ですが新しい報告ができない状況です。政治側に権限ありと主張するのであれば、政治家がきちんと責任をとらなければなりません。ここまで示してきた6月4日の丹羽私案の線でおおむね流れていく可能性が大きいと思われますが、皆様には今後行われる論議を十分に吟味して頂きたいと思います。そして、国民にとってどんな医療改革が必要かという視点で、ともにがんばっていきたいと考えております。


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