松本純の備忘録・リポート

2023(令和5)年

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日本薬剤師会山本信夫会長に聞く
2023(令和5)619()1100〜 志公会事務所

松本) 皆さんこんにちは。松本純です。今日は日本薬剤師会の会長であります、山本信夫先生にお見えいただきました。
ちょうど骨太の方針などがまとまったところですので、その状況などについてお伺いしたいと思っております。
山本先生こんにちは。お忙しいところすみません。
骨太の方針が一応方向性が決まったという風に聞いておりますけども、どんな感想で受け止めてらっしゃいますか?

山本) 先週の金曜日の日に閣議で決まったということで、公式に発表されたのはちょっと遅れていましたけども、中を読んでみると、片方では大変財政上が厳しい中で、全体をどうするかという抑制策がありますけれども、とりわけ子ども対策について、来年度の予算を考えなくてはならないという、そこに比較的注力した書きぶりになっています。
その一方で、社会保障費の抑制のようなものが記載されているんですけれども、子どものことを考えてみると、やはりお子さんたちがきちんと医療を受けられるためには、あまり極端な抑制策というのは問題でしょうし、さらにわが国で高齢化が極めて急速に進んでいますので、その分の費用全体を抑えこむというのは、これまでも進めてきましたけれども、大変厳しい環境にありますので、その辺りはしっかりと調整をしなきゃいけないだろうと。
一方で三年間のコロナの間に物価と賃金が急速に上がっている中で、とりわけ医療機関、薬局については費用が転嫁できませんので、そういったところについて、改めて診療報酬の部分でも考えてもいいよという見方ができますので、そういった意味では良かったかなと思っています。
その一方で、医薬品については毎年の薬価改定がかなり厳しい状況ですけれども、やはりイノベーションを進めるということがこの国にとって必要なことですので、そうした点について、その辺り、のことも十分に考えていこうという研究促進についての記載があることは、製薬企業さんとしては良かったんではないかという風に、骨太そのものはそのように考えています。
もう一方で、そうは言ってもこの先どんなことが起きるのか分かりませんので、色んな意味で見ていかなければならないなと。全ての予算関係が全部年末に押し込まれていますので、トリプル改定、医療と介護とそれから障害者サービスの部分が、三つ同時にやってきますので、その中ではしっかりと、それぞれに困らないような財源配分というのをお願いしたいと、今のところはそんな評価をしています。

松本) なるほど。医療制度、これは堅持していく、国民皆保険制度を堅持する、これはもう私としても当然のことだと思って、その責任を果たしたいと思っているんですが、医療サービスを行う、国民、患者さんの命を守る、この命の安全保障の中にありながら、医薬品が不足をして、患者さんに提供できないような状況がいっとき続いているというふうにも聞いているところなんですが、これは何が原因なんでしょう?

山本) いくつか要因はあると思うんですが、ひとつには2019年ですからもう4年前になりますが、暮れに、発覚というといかにも悪いことに見えますけど、いわゆる後発品の使用促進が進んでいる中で、後発品メーカーの一部で、言ってみりゃ正しい方法で作ってこなかった、ということが露見をした結果、医薬品としての性格として問題があると、全て回収がかかった、市場から消えてしまった。そのために様々な後発品メーカーが次から次へと供給不足に陥った。
その一方で、これは日本に限ったことではないと思うんですが、後発品、先発品を含めて、原薬という医薬品の元になるお薬が、わが国でこれまで作ってきたわけですけども、国内で作るには極めて高くつくというので、海外に依存をすることになった。その先が、中国、あるいはインド、あるいは韓国といったところになっているんですけども、問題は他国に原薬を依存してしまうと、何かしようと思っても物が入ってこない。といわゆる原薬を作る側の都合でドンドンドンドン値段が上げられてしまいますので、どうしてもわが国の中で作られる薬が、価格が上がってみたり、あるいは供給不足に陥ると。
比較があまり適切ではありませんけれども、70数年前に日本がアメリカと戦争を始めた時に、石油だの鉄くずが止められたというのと同じ状況が、また医薬品で起きるのではないか。
そういう意味ではいつも松本先生がおっしゃるように、平時の安全保障という観点からすると、医薬品が正しく安定的に供給されない状況は大変困った。
その二つが大きい理由で、あとは薬剤師なりの問題なのかもしれませんが、なくなっちゃうから早く買っておこうみたいな、いわゆるかつての買い占めというか、そういったことが起きているのが実際多少あっただろうということで、潤沢に薬があった時代と、いわゆるきちんとタイトになる時代との、対応をしっかりと変えていかなきゃいかんと。
そういう意味では今回、そうした部分で骨太の方で進めていくんだ、そういったことがないように考えよう、ということは大変良かったと思ってます。

松本) なるほど。でコロナの時の、ワクチンが国内で生産できないというようなことで、大変苦しい思いをしましたけども、何はともあれ医療サービスを提供し続けるには、医薬品がないことにはどうにも対応できないということにもなってしまいますので、創薬力を高めていくということは極めて重要なことだと思っています。
大変多岐に渡っての、薬剤師としての仕事、大変大きな課題も持ちながら頑張っていかなければならないことだと思うんですが、山本会長としては将来に渡って、薬剤師さん、いったいどういう職能を発揮してもらったらいいという風にお考えですか?

山本) 先生も私も同じような年代に大学を卒業していますので、かれこれ50年仕事をしているんですが、50年前と今を比べてみると、やはり医薬品も、薬剤師の患者さんに対する対応も、あるいは医療の中での薬剤師の立ち位置なども随分変わってきたんだろうと思っています。
であの平成27年、ちょっと古くなりますけども、厚生労働省が患者のための薬局ビジョンというのを出しました。その時に書かれてたのが、対物から対人へ、ですから物から人へという表現を採っていました。これまで、比較的薬剤師は薬を中心に見ながら物を考えてきたわけですけれども、これからは人を中心に考えなければいかんのではないかという、ある意味では苦言なんですが、実はその薬剤師が人を見ようとした時、自分たちが使う薬がしっかりしていないと人が見られない。
そういった意味ではこれまで薬を中心に考えてきた思想を、それを使う人に向けて考えていくという、大きな転換が要るんじゃないかと。それが人から薬を見るのか、薬から人を見るのか、様々あろうかと思いますが、少なくともこの薬はこの患者さんにどう使われていくんだろうかということをしっかり見ながら、使う相手の患者さんの生活像とか、そういったものまで配慮して、本当にこの薬でいいのかどうかという判断を迫られている、という気がします。
そのために我々が卒業した頃の4年制から、平成18年に6年に教育を変えたわけですので、その中でしっかりと臨床教育をしていくということも大事だと思いますけども、少し数が増えすぎているというような傾向もありますが、これまで昭和49年、ですから1974年に医薬分業がスタートしたということになっています。それからちょうど50年が経ちますので、半世紀経った、それを一旦振り返ってみて、良かったこと、悪かったこと、様々あると思うので、そこは真摯に反省をしながら、誤っていたところは訂正し、良かったところは伸ばしていくというので、医薬品を薬剤師が、この国の中でどうやって提供していくのか。その役割を担うのが薬剤師なんだ。従って薬剤師が知らないところで薬が提供されているという環境だけは何とか変えていきたい。そのために薬剤師としての仕事があるんだろうということをしっかりと、今現役の者もそうですし、これから我々の後を継ぐ薬剤師たちにも理解してもらえれば、多分日本の国で薬剤師っていい、楽しい生活ができるって皆に評価される仕事ができるんだと思いますが、処方箋だけに注目しているのでは、やはりこれからはもうダメなんだろうなという思いを持って今仕事をしています。

松本) ありがとうございます。ビッグデータ、あるいはDXといわれるような新しい取り組みも始まってます。これからも大きな変化が次々訪れると思いますが、またその節目節目で、ぜひ山本会長にはお話を伺えたら幸いと思っております。どうぞ引き続き宜しくお願いします。

山本) ありがとうございました。こちらこそ、どうぞ宜しくお願い申し上げます。


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